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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)9385号 判決 1974年5月28日

第九、三八五号事件原告、第六、七九〇号事件被告、第九、〇〇六号事件反訴原告(以下「原告」という。) 築舘照夫

右訴訟代理人弁護士 菊池紘

同 門屋征郎

同 小見山繁

第九、三八五号事件被告、第六、七九〇号事件原告、第九、〇〇六号事件反訴被告(以下「被告」という。) 東京印刷紙器株式会社

右代表者代表取締役 中峰弘

右訴訟代理人弁護士 馬場東作

同 福井忠孝

同 佐藤博史

主文

原告の被告に対する労働契約上の権利を有することの確認反訴請求を却下する。

被告は原告に対し、七五、〇〇〇円と、別紙目録(一)の「金額」欄記載の各金員およびこれに対する右各金員に対応する同目録の「起算日」欄記載の日時から完済に至るまで番号1ないし7の金員については年六分の、番号8ないし25の金員については年五分の、割合による金員を支払え。

原告の第九、三八五号事件のその余の請求および第九、〇〇六号反訴事件の第一項関係を除くその余の請求、被告の第六、七九〇号本訴事件の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

この判決は、第二項のうち別紙目録(一)記載の金員の支払を命ずる部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

第九、三八五号事件

被告は原告に対し八七、六三五円を支払え。

第六、七九〇号事件

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

第九、〇〇六号事件

原告が被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。

被告は原告に対し、別紙目録(二)の「金額」欄記載の各金員とこれに対する右各金員に対応する同目録の「起算日」欄記載の日時から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二項につき仮執行の宣言

(被告)

第九、三八五号事件

原告の請求を棄却する。

第六、七九〇号事件

被告と原告との間に雇用契約関係が存在しないことを確認する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第九、〇〇六号事件

原告の請求の第一項を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告)

一  被告(以下「会社」ともいう。)は、本社のほか、千葉県柏市と神奈川県平塚市に工場を有する資本金一億円の株式会社で、印刷設備、紙器設備、製版設備等を使用して印刷業務および紙器製造業務を行なっており、従業員数は昭和四七年七月現在二四九名である。

原告は、同四四年一〇月会社に入社し、柏工場事務課において電算機業務に従事していたところ、同四六年一〇月二〇日付で本社総務部付に配置換された。

二  原告は、両膝遊離性骨端軟骨炎(私傷病)に罹り、このため、同四六年一〇月一四日から長期病休し、この期間が三か月に達したため、同四七年一月一四日就業規則三五条により、同日から同年七月一三日まで(六か月間)私傷病休職に付された。

三  原告は、その後前記疾病が軽快して過激な重労働以外就労することが可能となり、書類の作成・整理と取引先への書類届出という本社総務部付の業務には充分耐え得るようになったので、同四七年二月二一日会社に対し、復職と就労を申し出た。

四  しかるに会社は、原告の復職を認めず就労を拒否し、あまつさえ同四七年六月八日発信同月一〇日到達の書面により原告に対し、休職期間満了と共に解雇する旨の解雇予告をしたうえ、同年七月一四日就業規則三九条二号、四一条二号、七号により解雇した。右関係条項の定めは、次のとおりである。

三九条 従業員が次の各号の一に該当したときは退職とする。

(2) 休職期間の満了直後に復職しないとき

四一条 従業員が次の各号の一に該当したときは解雇する。

(2) 精神または身体の障害もしくは虚弱老衰、疾病等により勤務にたえられないと認められたとき。

(7) その他前各号に準ずると認められたとき。

五  会社が原告の復職の申出を認めず休職処分を維持したことおよび原告に対する解雇の意思表示は、次に述べる理由により、いずれも無効である。

(一) 就業規則三七条は、「休職期間中休職の事由が消滅したとき又は休職期間が終了したときは復職させる。」と定めている。ところで会社は、復職後における原告の業務遂行能力を本社営業部の業務との関連で問題にしているところ、同部配転は、原告が本件疾病に罹患した後にこれを承知のうえ決定されたものであり、原告に対して健康維持上不可能をしいるものである。また、原告は電算機関係の専門知識を有しており、入社に際しての労働契約においては、原告の職種・業務内容は電算機業務とこれに関連する業務に限定されていたから、原告の同意がない以上、職種等を異にする営業部への配転は許されない。以上いずれの理由によるにしろ営業部への配転は無効であるから、原告の業務遂行能力は本社総務部付の業務についてその適否を決すべきところ、これが業務の遂行に充分耐え得ることは前述したとおりである以上、「休職の事由が消滅した」ことにより、本件休職処分は失効した。

(二) 会社従業員で組織する東京印刷紙器労働組合(以下「組合」という。)は同四七年六月四日結成され、同月七日この旨会社に通告し、原告は中央執行委員、渉外部長に選出された。原告はこれより先、同四六年夏ころ同僚従業員とともに労働組合の結成を目的とした準備会(以下「準備会」という。)を発足させ、発起人の一員として、ビラ等による情宣活動等に積極的に関与し、これらの活動の成果が前記組合の結成となった。ところで会社の役員および職制は、準備会の存在をいち早く知るや、中心的活動家を工場現場から本社に配置換えする等の妨害とか活動に圧力を加え、組合の結成を阻止すべく狂奔した。

本件休職処分を取り消すことなく固執し、さらに解雇の意思表示に及んだことは、原告が組合を結成しようとして精力的に活動し組合の積極的な活動家であることを嫌悪する会社が右活動を理由としてなしたものであるから、不当労働行為としていずれも無効である。

(三) 原告の本件疾病の病状は、同四七年二月一六日現在軽作業による復職可能という主治医の診断から明らかなように、本社総務部付の通常業務に充分耐え得る程度に回復しているから、これを無視して会社の勤務に耐えられないことを理由とする解雇の意思表示は、解雇権の乱用にあたり、無効である。

六(一)  会社においては、月別賃金は前月二一日から当月二〇日までの分が当月二五日に支給された。

(二)  原告の賃金月額は次のとおりである。

(1) 同四七年五月から同四八年一月まで 八七、六三五円

(2) 同四八年二月から同四九年一月まで 一〇二、六五七円

組合と会社間の昇給協定によれば、これが内容は、従業員一律(本給×一二パーセント+一、〇〇〇円)+考課調整本給×四パーセントであり、平均昇給額は本給×一六パーセント+一、〇〇〇円であるから、原告の昇給後の月額は平均昇給額を加算した一〇二、六五七円となる。

(3) 同四九年二月以降 一二九、八二一円

組合と会社間の昇給協定によれば、これが内容は、従業員一律(本給×二〇パーセント+一、五〇〇円)+考課査定本給×五パーセントであり、平均昇給額は本給×二五パーセント+一、五〇〇円であるから、原告の昇給後の月額は平均昇給額を加算した一二九、八二一円となる。

(三)  原告の賞与額は次のとおりである。

(1) 同四七年上期分 二三〇、四八〇円

組合と会社間の同四七年度賞与協定により、同四六年一一月二一日から同四七年五月二〇日までを支給対象期間とし、同四七年七月一二日を支給日として平均本給×二六三パーセントが賞与として支給されたから、原告の場合八七、六三五円に二六三パーセントを乗じた二三〇、四八〇円となる。

(2) 同四七年下期分 二四五、三七八円

前掲賞与協定により、同四七年五月二一日から同年一一月二〇日までを支給対象期間とし、平均本給×二八〇パーセントの額と定められ、支給日は同年一二月八日とされたから、原告の場合八七、六三五円に二八〇パーセントを乗じた二四五、三七八円となる。

(3) 同四八年上期分 二八七、四四〇円

組合と会社間の同四八年度賞与協定により、同四七年一一月二一日から同四八年五月二〇日までを支給対象期間とし、同四八年七月六日を支給日として平均本給×二八〇パーセントの額と定められたから、原告の場合一〇二、六五七円に二八〇パーセントを乗じた二八七、四四〇円となる。

(4) 同四八年下期分 三〇七、九七一円

前掲賞与協定により、同四八年五月二一日から同年一一月二〇日までを支給対象期間とし、同年一二月八日を支給日として平均本給×三〇〇パーセントの額と定められたから、原告の場合一〇二、六五七円に三〇〇パーセントを乗じた三〇七、九七一円となる。

(5) 同四八年一一月特別賞与分 四一、〇六三円

会社は、同四八年一一月二五日本社従業員に対し、特別賞与として一律に本給×四〇パーセント+アルファを支給したから、原告の場合一〇二、六五七円に四〇パーセントを乗じた四一、〇六三円となる。

七  原告は被告に対して前記のとおり賃金請求権を有しているところ、仮りにこれら請求の一部または全部について賃金請求権が否定されるとしても、以下に述べる理由により、債務不履行または不法行為に基づき、これと同額の損害賠償請求権を有する。

会社においては、前記のとおり従業員について定期昇給、定期賞与、特別賞与を実施しているから、原告に対しても他の従業員と同時に右の定期昇給等を決定すべき義務を負っているにもかかわらず、これを行なわない。また観点を変えていえば、原告に対する本件解雇は、前述したところから明らかなように不法行為にあたるというべきである。以上いずれの理由によるとしても、原告は他の従業員に対する定期昇給、定期賞与、特別賞与の平均昇給率、平均支給率で算定した前記賃金と相当額の損害を蒙っている。

八  よって、

第九、三八五号事件につき

被告に対し、同四七年五月二一日から同年六月二〇日まで一か月の賃金八七、六三五円の支払を、

第九、〇〇六号事件につき

原告が被告に対し労働契約上の権利を有することの確認と、別紙目録(二)の「金額」欄記載の賃金または賞与とこれに対する各支払日の翌日である「起算日」欄記載の日時から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、

求める。

(被告)

本案前の抗弁

第九、〇〇六号事件反訴請求の趣旨第一項は、被告の原告に対する第六、七九〇号事件本訴請求の趣旨第一項と訴訟物を同一(原、被告間の雇用契約関係の存否)にするものであるから、民訴法二三一条に抵触する重複起訴にあたり、不適法である。

答弁

第一項は認める。ただし、本社総務部付は原告が病休のための暫定的な配置である。

第二項は認める。

第三項のうち、原告の復職と就労の申出は認めるが、その余は否認する。

第四項は認める。

第五項につき、冒頭の部分の主張は争う。(一)のうち、就業規則の定め、原告の復職后の職務遂行能力を本社営業部の業務との関連で検討したこと、原告が入社時電算機関係の専門知識を有していたこと、以上の事実は認めるが、その余は否認する。(二)のうち、組合の結成と会社に対する通告(ただし結成は通告のあった昭和四七年六月七日)、原告の役員就任は認めるが、準備会の発足と同会における原告の活動は知らない。その余の、会社が準備会の組合結成活動を妨害したとか原告の組合活動を嫌悪したという点は、すべて否認する。(三)のうち、原告主張のような診断がなされたことは認めるが、その余は否認する。

第六項につき、(一)は認める。(二)の(1)は否認する。原告は私傷病休職中のため同四七年二月実施の定期昇給に与り得なかったから、月額賃金は従前の七五、〇〇〇円のままである。(2)および(3)のうち、会社と組合間の昇給協定の内容は認めるが、原告の賃金額は否認する。(三)の(1)ないし(5)のうち、定期賞与についての会社と組合間の協定内容および支給日、特別賞与の算定方式および支給日は、いずれも認めるが、原告の賞与額は否認する。

第七項の原告が賃金請求権または損害賠償請求権を有する旨の主張は、争う。

主張

一  会社は、昭和四六年九月原告が従来担当していた電算機業務および同人の所属する事務課を廃止することになり(同年一〇月二〇日実施)、これに伴う人事異動として原告を本社営業部に配置換えすべく予定していたところ、一〇月一四日以降欠勤を始め早期治癒の見込が立たなかったため、長期欠勤者に対する従来の慣例により、暫定的な職場として本社総務部付に配転した。

二  復職拒否と解雇の理由は、次のとおりである。

原告が会社に同四七年二月一六日提出した同月一五日付診断書によれば、原告は、「両膝遊離性骨端軟骨炎」のため「関節内遊離体摘出術施行せるも今後更に又遊離体の発生は予測されるため過激な労働は不適当である」と診断されていたため、会社は原告の身体が会社業務に堪え得るかどうかを懸念し、同月一六日と二四日の二回原告の主治医の意見を聞くとともに、前記疾病の性質を自調ら査した。

右の結果によれば、本件疾病は悪性のもので、今後強大な外力または「外力の累積により」、関節の骨とか軟骨が壊れて関節腔内に遊離するという、気を失う程の激痛を伴う症状の再発が避けられず、再発を繰り返すうちに「変形性関節症」に移行し、「人工関節」をとりつける等の方法により対処するほかなくなる。しかも前記症状の再発は、事前の予知がなく突然の激痛発作をもって患者に襲いかかることが、判明した。

ところで、原告の就労が予定されている営業部の業務内容は、社内でのデスクワークは殆んどなく、一人の営業部員が一日がかりで広範囲に散在する五、六社の顧客を訪問するのを通例としたから、外勤として可成りの身体的負担がかかる仕事である。したがって、若し原告を右業務に就かせたとすれば、かような業務内容からして、同人の脚部に「外力の累積」が加わり、その病状を増悪させ、脚部が不具同然となる時期を早めさせる結果を招くことは、火を見るよりも明らかであるから、以上の事情を知悉しながら、従業員の健康管理義務を負う会社が原告に対して就労を認めることは、とうてい許されない。また、前述のように突然の発作の襲来が予想される以上、原告としても業務に専念することはできず、会社もその労働力に期待がもてず、原告の身体的状況に適した職場は会社に見当らない。

以上要するに、原告は、同四七年二月の復職・就労を申し出た当時はもちろん、本件解雇当時更に進んで将来においても、会社の業務に堪え得る身体的状況にはなく、原告の疾病に対する右の見解は、同四七年五月二六日付主治医の意見書においても変りはない。

三  以上により、本件解雇の意思表示は有効であるから、原、被告間の雇用契約関係は同四七年七月一四日限りで終了したというべく、これに基づき、第六、七九〇号事件において、右関係の不存在確認を求める。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  第九、〇〇六号事件反訴請求の趣旨第一項について

本請求の趣旨第一項は、被告が原告に対する第六、七九〇号本訴請求事件において、原、被告間の雇用契約関係不存在確認を求めているのに対し、これが反訴において右関係の存在確認を求めているものであるから、両請求にかかる訴訟物は同一というべく、右反訴請求は民訴法二三一条の重複起訴にあたり、不適法として却下を免れない。

二  原告主張の第一、第二、第四項の事実は、原告に対する本社総務部付の配置換が病休のための暫定的なものであるかどうかを除いて、すべて当事者間に争いがない。

三  会社の原告に対する復職拒否と解雇理由について

(一)(1)  ≪証拠省略≫によると、次の事実が認定でき(る。)≪証拠判断省略≫

会社では、昭和四六年九月一四日の役員会において、原告の従事していた電算機業務を廃止し、これに伴う人事異動として原告を本社営業部に配置換えを予定したところ、原告が右廃止(同年一〇月二〇日)に先立つ同年一〇月一四日から前記認定のように病休を始め、当時提出された診断書(乙第五号証)では可成りの長期にわたることが予想されたため、従来の慣例に従い、病休中の暫定的な配置として本社総務部付に発令した。その後原告から同四七年一月三一日より出勤する旨の連絡があったため、翌二月一日付で営業部勤務を命ずることとした。

ところで営業部において予定されている原告の業務内容は、他の営業部員の場合と同様、毎日五、六社の得意先を訪問して受注業務に携わるものであり、各種交通機関の利用とか徒歩等、いわゆる足を使っての仕事であった。

(2)  原告は、入社時の労働契約においては、自分の電算機関係の専門知識を活用し、その職種・業務内容は電算機業務とこれに関連する業務に限定されていた旨主張する。しかし、原告が電算機関係の専門知識を有していたことは当事者間に争いがないとしても、会社との労働契約の内容が右主張のように限定されていたことを認定すべき証拠は皆無であるから、右主張は失当である。また、以上の認定からして、原告の健康維持上不可能をしいる云々の主張も、その前提を欠き、失当である。

(二)  ≪証拠省略≫によると、次の事実が認定でき、他に左右すべき証拠はない。

原告が長期欠勤後出社して同四七年二月一六日提出した同月一五日付診断書(乙第九号証)には、「両膝遊離性骨端軟骨炎」のため、「関節内遊離体摘出術施行せるも今後更に又遊離体の発生は予測される為過激な労働は不適当である。」と診断されていたため、会社は、原告の健康状態が営業部員としての通常勤務に耐え得る程度まで恢復しているかどうかを懸念し、同月一六、二四日の両日主治医を訪問して現症状、予後、就労させることの可否等についての意見を聴取し、更に同年五月一六日にも説明を聞いたうえ、同月二六日付で同医師から最終的な診断・所見を意見書として求めた。これによれば、本症例は、今後も「強大な外力」または「外力の累積」により再発が予測され、発症は「関節痛又は遊離体の関節内嵌頓による激痛」により本人が本疾病を知るものであること、以上を前提として患者(原告)の社会復帰の方法としては、病期に応じての治療対策を立てて復職することが相当と考えられるので、同四七年二月一六日以降軽作業により就労することができる、とされている。

会社は、以上のような原告の疾病の経過・現状と予後では、前記認定の営業部員としての業務に対して、復職要求時(同四七年二月二一日原告が復職と就労を申し出たことは当事者間に争いがない。)はもちろん、将来においてもとうてい堪え得ることができず、就業規則三七条に定める「休職の事由が消滅した場合(右の定については当事者間に争いがない。)にあたらず、休職期間満了時においても右事由は消滅しないと結論した。

(三)  以上によると、原告の本件疾病による健康状態は、就業規則に定める復職が認められる場合に該当せず、本件解雇の意思表示当時の段階では解雇事由に該当する、と一応いわなければならない。

四  会社の不当労働行為について

(一)  ≪証拠省略≫によると、次の事実が認定でき(る。)≪証拠判断省略≫

(1)  会社には、従来社長以下全従業員加入の「東印会」という親睦団体があり、従業員の中から幹事を選出して、賃金等の労働条件を会社と協議していた。これに対し、原告は同僚の会原静雄、田中名都夫ら五名と発起人となり、同四六年七月一五日準備会を発足させ、原告は年長者のためリーダー格となり、渉外部門を担当し、上部団体である全印総連、全国一般千葉県地方本部との連絡の衝に当り、これら団体から組合結成の指導を受けた。準備会は、同年一〇月ころから会社内でビラを撒く等の情宣活動をして逐次加入者を拡大し、同四七年三月五日柏工場の所在する柏市において結成大会を予定していたところ、その前日(三月四日)突然発起人の一員である会原、田中に対し関西方面等への出張命令が発せられ、また当日(三月五日)は会社職制らによる後記妨害もあったため、予定を変更し、同年六月四日組合を結成し、同月七日社内で結成大会を開催してこの旨会社に通告した(会社に対する通告の点は当事者間に争いがない。)。原告は、前記のように準備会の幹部として組合の結成に参加し(ただし、同四六年一〇月一三日から同四七年二月中旬までは本件疾病により療養中)、組合結成とともに中央執行委員、渉外部長に選出された(役員就任は当事者間に争いがない。)。

(2)  会社は、右の動きに対し、いち早く同四六年九月上旬「下期対策」として、東印会の活動の活溌化、職場懇談会を推進してリーダーの養成に努める等の方針を決定し、これに基づき、同年一〇月ころ労使間の意思の疎通を図ることを目的として職場懇談会を設立し、北川専務は当時発行された社報において、「勝手な言い分」と題して、準備会の動き、その配布したビラの内容を批難したほか、同年一二月ころ東印会の組織を変更して管理職以上を特別会員とし、交渉協議会制度を新設し、昇給、一時金などの労働条件について、会社と東印会との間で協議を行なうようにした。そして東印会の幹部は、前記三月五日の組合結成予定日の当日柏市に赴いて準備会に対し、「東印会は単なる親睦団体ではなく、昨年一二月労働条件に関する交渉権を会社より獲得し……会社と交渉する労働者の交渉団体であり」したがって「労働組合へ移行することは東印会で審議されるべきである」等の理由をあげて、「労働組合を結成することを直ちに中止するよう要望する」旨の要望書を手交した。また、社長ら首脳部は、同四六年九月上旬原告を二時間近く料亭でもてなしたうえ、組合結成の動き、メンバー、上部団体との関係等を問いただし、「上部団体加盟は問題である。結局は労働組合の自主性をそこなうものではないか。」と社長自ら発言し、北川専務は翌日も原告を工場応接室に呼び出して同趣旨の発問をし、更に課長ら職制は、準備会のメンバーの夜間会社外における会合等の動静を探ったりした。前記三月五日は日曜日であるにもかかわらず、北川専務を初めとして職制ら十数人は柏市に集合して、準備会のメンバーの動きに圧力を加え、前日出張中の会原、田中は、新幹線の車中から外部に電話連絡しようとした際、同行した吉村課長からその言動を終始監視され、そのころ従業員の自宅に職制が訪ずれ、両親に対して組合活動に不安感を抱かせる話をしたりした。かような経過を辿ったうえ同四七年六月七日組合の公然化がなされたところ、同日から同月一〇日までの間における組合員の社内におけるビラ配布、原告と全印総連の役員を社内に入れたことにつき、会社はこれに関係した執行委員の大半を含む組合員八名に対し、相当数の質問書、警告書を発し、始末書の提出を求め、更に再三繰り返し呼び出したりした。

(3)  以上(1)および(2)の認定によると、会社は、従業員の労働組合の結成、特にこれが上部団体に加盟することに対して終始極めて警戒的であり、原告が準備会の発起人の中では年長者でもあったため、同人を通じて同会の動きをチェックしようと試み、また、社報、メンバーの行動の監視、家庭訪問等種々の方法により、組合結成の阻止を図り、その効がなく組合が結成されるや、就業規則上社内で許可なく印刷物の配布が禁止されるとはいえ(このことは≪証拠省略≫から明らかである。)公然化の当日から四日間にわたり連日執行委員ら組合の活動家に対し、組合ビラの配布に関連して執拗に厳しい態度で臨んだ。

(二)  以上の会社の組合また原告に対する態度を背景として、原告の復職・就労の申出に対する会社の対応の仕方について検討する。

≪証拠省略≫によると、次の事実が認定でき他にこれを左右すべき証拠はない。

原告の復職等の申出の衝に当った東総務部長は、同四七年二月一六日原告から前掲乙第九号証の診断書の提出を受けるまでの間、原告の疾病については、同四六年一〇月一三日付の「右膝関節鼠、左膝半月板損傷、加療約六週間」という診断書(乙第五号証)と右疾病のため入院手術を受けたという程度の知識しか持ち合わせていなかったにもかかわらず、同四七年二月一六日の原告との面接の際、早くも任意退職云々を口にし、同月一八日付総務部長名義の文書では、前掲乙第九号証の診断書による復職の申出に対する結論は、十分な審議を必要とするから、数日間の余裕を要する旨原告に回答しながら、翌一九日付社長名義の文書では一転して、前記診断書の内容では治癒の状態でないから復職は認められない旨の回答を発した。会社は、本件疾病が一般に周知されていない難病であるにもかかわらず、原告の主治医に再三照会するほかは他に専門医師の意見を求める等の配慮を一切せず、医学につき素人の東総務部長をして図書館等で文献の調査を一、二させるにとどまった。同年二月末に至り、会社は本件疾病の完治があり得ない以上、総務部付きのまま当分軽作業につけて様子を見るなどは論外として、適職への復帰の可能性を検討することなく、復職は認めずに休職期間の満了により解雇する方針を早々に決定し、翌三月一日付文書でこの旨原告に通知した。そして、前記のとおり同年六月七日組合が公然化するや、組合役員らに対する文書による前記警告等と符節を合わせて、同月八日付で解雇予告を発した。

(三)  以上(一)、(二)で述べたところを綜合すると、会社は、原告が準備会から組合結成に至るまでの間、その中心的な役割を果していたのを嫌悪し、同人の疾病に藉口して同人を企業外へ排除し、これにより組合の勢力の弱体化を図ろうとの意図の下に、前記三月一日付文書による復職の拒否および本件解雇予告の意思表示に及んだと解するのが相当であるから、いずれも不当労働行為にあたり、無効というべきである。≪証拠省略≫から認定できる、原告が、本件復職要求に関連し、同四七年四月一七日東京都地方労働委員会に救済命令を申し立て、また同年五月二九日当裁判所に対し仮処分を申請し、本件解雇予告の意思表示当時両事件とも係属中であった事実も、前記結論を左右するには足りない。

よって、本件解雇の意思表示が有効であることを理由とする被告の第六、七九〇号事件の本訴請求は失当として棄却を免れない。

五  原告の賃金請求について

(一)  原告主張の第六項の(一)は当事者間に争いがない。

(二)  月別賃金について

(1)  同四七年五月から同四八年一月まで

原告主張の賃金月額は、七五、〇〇〇円の限度では当事者間に争いがないが、これを超える額を認めるべき証拠はないから、七五、〇〇〇円であり、被告は原告に対し、同四七年六月に支給すべき同年五月二一日から翌六月二〇日までの一か月の賃金七五、〇〇〇円と、同年七月以降同四八年一月まで毎月七五、〇〇〇円およびこれに対する支給日の翌日である毎月二六日から完済まで商事法定利率年六分の遅延損害金を支払うべきである。

(2)  同四八年度および同四九年度における組合と会社間の昇給協定の内容が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところ、右協定によると、昇給額の査定に当っては会社の査定分が考慮されているから、右協定に基づき原告が直ちに、一般従業員の平均昇給額を加算した額に昇給したことを前提として昇給後の賃金請求権を有すると解することはできない。しかし、本件解雇の意思表示は、前記判断から明らかなように不法行為を構成するというべきであるから、原告の勤務成績が平均の従業員より劣っていることの主張・立証のない以上、平均昇給額を加算した賃金相当の損害賠償請求権を有しているということができる。

そうだとすると、同四八年二月から同四九年一月までは七五、〇〇〇円×一・一六+一、〇〇〇円の月額八八、〇〇〇円、同四九年二月以降は八八、〇〇〇円×一・二五+一、五〇〇円の月額一一一、五〇〇円となり、被告は原告に対し、右額の損害金とこれに対する毎月二六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

(三)  賞与額について

(1)  同四七年上期分

組合と会社間の同四七年度賞与協定の内容が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがないところ、原告は支給対象期間である同四六年一一月二一日から四七年五月二〇日までの大半(終期は同四七年二月末の前記復職の拒否決定時)を病気により欠勤・休職していたものであり、成立に争いのない乙第四五号証(給与規程)によると、賞与は「従業員の勤務成績に応じて」支給される旨定められているから(三八条一項)、果して原告に賞与が支給されるものか、またその額が幾らであるかは一切明らかでなく、したがって原告は本賞与に関する請求権はない。

(2)  同四七年下期分以降

同四七年下期分、同四八年上、下期分および同四八年一一月特別賞与についての、組合と会社間の協定内容および支給日、特別賞与の算定方式および支給日が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。ところで賞与は、前述のように従業員の勤務成績に応じて会社が支給すると定められており、かつ弁論の全趣旨から明らかなように、前記協定においても会社の考課査定分が含まれていることが認められているから、一般従業員に支給されたことから直ちに原告に賞与請求権があるとは解せられず、結局月別賃金の場合と同様、不法行為による平均賞与額相当の損害賠償請求権を有しているというべきである。

そうだとすると、同四七年下期分は七五、〇〇〇円×二・八の二一〇、〇〇〇円、同四八年上期分は八八、〇〇〇円×二・八の二四六、四〇〇円、同四八年下期分は八八、〇〇〇円×三・〇の二六四、〇〇〇円、同四八年一一月特別賞与分は八八、〇〇〇円×〇・四の三五、二〇〇円となり、被告は原告に対し、右額の損害金とこれに対する各支給日の翌日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

以上により、原告の第九、三八五号事件および第九、〇〇六号反訴事件における金員請求は、以上認定した限度で理由があるから認容できるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎啓一)

<以下省略>

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